文章理解
行政書士「文章理解」の問題
老いは喪失の物語として語られる。体力が落ち、記憶が薄れ、社会的な役割が剥がれてゆく。獲得の坂を上る前半生に対して、後半生は下り坂として描かれる。この描き方に、あからさまな悪意はない。しかし、そこには一つの前提が潜んでいる。人間の価値を測る物差しの目盛りが、若さを基準に刻まれているという前提である。
速さ、新しさへの適応、同時に多くを処理する力。これらは確かに加齢とともに衰える。その事実を否定しても始まらない。だが、これらの能力が物差しの全部だろうか。例えば、初めての事態に直面したとき、経験を積んだ人は個々の記憶の検索では若者に劣っても、状況の型を見抜く勘所において勝ることがある。長い時間を生きたことは、出来事を長い尺で測る眼を与える。目先の損得に一喜一憂しない、腰の据わった判断と言い換えてもよい。それは処理速度とは別種の、時間をかけてしか形成されない能力である。若い頃には見えなかったものが今は見える、と感じる人は多いはずだが、その差は、衰えの裏面で静かに進んでいた獲得なのである。
老いを一律の衰退と見る見方は、こうした別種の成熟を測る目盛りを持たないために、それを無いものとして扱ってしまう。若さの物差しで老いを測れば、老いは欠損としてしか現れない。だが、それは測定の帰結であって、老いそのものの姿ではない。測られていないものは、存在しないものと同じ扱いを受ける。物差しの選択は、それほどに重いのである。
誤解のないように言えば、これは老いを美化して衰えから目を逸らす議論ではない。衰えは実在するし、支援も要る。問題は、衰えの事実から、老いの全体を喪失として塗りつぶす飛躍である。人生の各段階は、それぞれに固有の獲得と喪失を抱えている。必要なのは、若さを唯一の原点とする一本の物差しを疑い、異なる段階を異なる目盛りで測る複眼を持つことである。老いをどう測るかは、やがて老いる私たち自身を、どう迎えるかという問題にほかならない。
本文の内容に合致するものはどれか。
1経験を積んだ人は、個々の記憶の検索や処理の速さをも含めたあらゆる能力の面において若者に勝ると本文は述べている。
2加齢による衰えは実在せず、老いの困難はすべて社会の偏見が作り出した見かけにすぎないとされている。
3高齢者は人生のあらゆる局面で若者より賢明な判断を下せるので、重要な決定は委ねるべきだとされる。
4筆者は加齢に伴う衰えの実在を認めつつ、若さを基準とする単一の物差しで老いを喪失と総括する見方を退ける。
5老いの経験には個人差というものが存在せず、誰にとってもまったく同じ姿で現れるものだと筆者は考えている。
正解
4.筆者は加齢に伴う衰えの実在を認めつつ、若さを基準とする単一の物差しで老いを喪失と総括する見方を退ける。
第四段落が、衰えの実在を認めた上で喪失への塗りつぶしという飛躍を批判しており、正解肢がこれと一致するため。
?選択肢ごとの解説
1 ×検索や速さでは劣り得ると本文は認めており過度の一般化。
2 ×衰えの実在と支援の必要を本文は明言している。
3 ×常なる優位や決定の委任は本文のどこにもない。
4 ○第四段落が、衰えの実在を認めた上で喪失への塗りつぶしという飛躍を批判しており、正解肢がこれと一致するため。
5 ×経験の一様性は本文にない断定である。
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作成・校閲:ukamiru編集部 · 行政書士 過去問 · gyosei-kiso8-0014
