文章理解
行政書士「文章理解」の問題
財布の中の紙幣は、なぜ価値を持つのか。紙としての原価は、そこに印刷された金額に遠く及ばない。かつての貨幣が金や銀でできていた時代なら、素材の価値が答えになり得た。素材の裏づけを失った現代の貨幣は、別の何かに支えられているはずである。だが、今日の貨幣の大半は、素材的にはほとんど無価値な紙と、通帳上の数字である。数字に至っては、紙という実体すら持たないのである。それでも人々が安心してそれを受け取るのはなぜか。
答えの核心は、循環する期待にある。私が紙幣を受け取るのは、明日、店がそれを受け取ってくれると信じるからである。店が受け取るのは、仕入先が受け取ると信じるからである。誰もが「他の誰もが受け取るはずだ」と信じている、この期待の連鎖こそが、紙切れを貨幣にしている。貨幣の価値は、モノの内部にではなく、人々のあいだに存在するのである。貨幣とは、皆が信じているという事実そのものが価値の裏づけとなる、循環の上に立つ制度である。だからこそ、その信は個人の気分ではなく、社会の仕組みによって支えられなければならない。
むろん、この連鎖は放っておいて保たれるものではない。通貨を発行する仕組み、その乱発を防ぐ規律、支払いに使えることを裏づける法の定め。期待の連鎖は、こうした制度の支えによってはじめて安定する。逆に言えば、制度への信頼が崩れるとき、貨幣は驚くほどあっけなく紙切れに戻る。物価が際限なく駆け上がり、人々が通貨から逃げ出す事態を、歴史は何度も記録してきた。そのとき人々が目撃するのは、単なるモノの値上がりではなく、約束の網の目がほどけてゆく光景である。
こうして見ると、貨幣は単なる経済の道具である以上に、社会の合意の凝縮物であることが分かる。見知らぬ者同士が、互いの素性を問わずに協力し合えるのは、共通の約束としての貨幣があるからである。貨幣への信頼とは、突き詰めれば、その社会の制度と将来への信頼である。通貨の動揺が単なる経済問題を超えて社会の動揺として経験されるのは、このためにほかならない。
本文の内容に合致しないものはどれか。
1私が貨幣を受け取るのは他の誰もが受け取るはずだと信じるからであり、この期待の連鎖が貨幣を支えるとされている。
2期待の連鎖は自然に保たれるのではなく、発行や規律をめぐる制度の支えによってはじめて安定する。
3制度への信頼が崩れるとき貨幣があっけなく紙切れに戻ることを、歴史は繰り返し記録してきた。
4見知らぬ者同士が素性を問わず協力できるのは、共通の約束としての貨幣が存在するからである。
5今日の貨幣の価値は素材そのものの有用性に由来しているため、人々の信頼が失われても損なわれることはない。
正解
5.今日の貨幣の価値は素材そのものの有用性に由来しているため、人々の信頼が失われても損なわれることはない。
本文は現代貨幣の素材的無価値と、信頼崩壊で紙切れに戻る事実を述べるので、素材由来説の肢が不合致となる。
?選択肢ごとの解説
1 ×第二段落の核心と合致するため不合致肢ではない。
2 ×第三段落冒頭の記述と合致している。
3 ×第三段落後半の記述と合致している。
4 ×第四段落の記述と合致している。
5 ○本文は現代貨幣の素材的無価値と、信頼崩壊で紙切れに戻る事実を述べるので、素材由来説の肢が不合致となる。
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作成・校閲:ukamiru編集部 · 行政書士 過去問 · gyosei-kiso8-0015
