文章理解
行政書士「文章理解」の問題
なぜ自然を守らなければならないのか。この問いへの答えは、大きく二つの立場に分かれてきた。一つは、自然が人間にとって有用だから守るという立場である。森は水を蓄え、生物の多様性は薬の種を宿し、景観は心を癒す。守る理由を人間の利益に求めるこの考えは分かりやすく、政策の言葉にも翻訳しやすい。しかし、この立場だけでは、有用性の見つからない自然は守る理由を失う。役に立たない湿地は埋め立ててよい、という結論を拒めないのである。守るに値するかどうかを市場の値札で決めるなら、値のつかないものから順に失われてゆくことになるだろう。
もう一つは、自然はそれ自体として価値を持つ、という立場である。人間の役に立つかどうかとは無関係に、生き物や生態系には固有の価値があり、人間はそれを侵してはならない、と。この考えは倫理として高潔だが、実践の指針としては難所を抱える。自然のあらゆる部分が固有の価値を持つなら、開発も医療も、およそ自然への介入はすべて悪となりかねず、価値どうしが衝突したときの裁定の基準も示しにくい。高潔な原理は、現実の利害を調整するという場面では、しばしば沈黙してしまうのである。
二つの立場の隘路を前に、第三の足場として浮かび上がるのが、未来世代への責任という考えである。私たちが自然を損なうとき、その代償を最も重く払うのは、まだ生まれていない人々である。彼らは現在の決定に関与できず、抗議の声も上げられない。将来の人々が生の条件を選び直せる余地を残しておくこと、つまり選択肢を先取りして奪わないことは、有用性の計算とも自然の神聖視とも異なる、世代間の公正の問題である。
ただし、未来世代は投票もせず、訴訟も起こさない。その利益は、現在世代が想像力によって代弁し、制度によって確保するほかない。長期の影響評価を政策決定に組み込む仕組み、将来利益を代弁する公的機関。環境倫理の課題は、声なき者への責任を、個人の善意から社会の制度へと具体化することにあるのだ。
本文の内容に合致するものはどれか。
1自然はもっぱら人間にとっての有用性のゆえに保護されるべきであり、この基準に例外はないと筆者は述べるとされている。
2自然の内在的価値を認める立場に立てば、保護の実践上の判断はすべて容易になると本文は述べている。
3未来世代はやがて自らの権利を主張できるのだから、現在世代が代弁する必要はないと筆者は考えている。
4環境問題の解決策は経済成長を直ちに停止することに尽きると筆者は結論づけ、制度の整備には触れていない。
5有用性論と内在的価値論の双方の難点を踏まえ、未来世代への責任を制度によって具体化する必要が説かれる。
正解
5.有用性論と内在的価値論の双方の難点を踏まえ、未来世代への責任を制度によって具体化する必要が説かれる。
第三段落が第三の足場として世代間の公正を示し、第四段落が制度化を課題とする流れを正解肢が要約するため。
?選択肢ごとの解説
1 ×有用性のない自然を守れない難点を本文は指摘する。
2 ×内在的価値論は実践上の難所を抱えると本文は述べる。
3 ×未来世代は声を上げられず代弁が必要とする本文と逆。
4 ×成長停止論は本文になく、結論は制度化の必要である。
5 ○第三段落が第三の足場として世代間の公正を示し、第四段落が制度化を課題とする流れを正解肢が要約するため。
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作成・校閲:ukamiru編集部 · 行政書士 過去問 · gyosei-kiso8-0010
