文章理解
行政書士「文章理解」の問題
記憶は、過去を録画しておく装置のようなものだと思われがちである。思い出すとは、保存された映像を再生することだ、と。しかし、この録画の比喩は、人間の記憶の実際の働きとは大きく食い違っている。
同じ出来事を経験した二人が、後日まったく違う場面を語り出すことは珍しくない。しかも双方とも、自分の記憶に嘘の意識はない。思い出すたびに、記憶は現在の関心や感情、その後に得た知識によって編集され、細部が補われ、並べ替えられる。想起とは再生ではなく、そのつどの再構成なのである。幼い日の思い出だと信じているものが、実は後年に見た写真や家族の語りから組み立てられていた、ということさえある。記憶は過去から現在へ一方向に届けられる小包のようなものではなく、現在が過去にたえず手を入れ続ける共同作業のようなものなのである。
この性質を、記憶の欠陥として嘆くべきだろうか。そうとは言い切れない。記憶の役割は、過去を証拠として保管することよりも、経験を現在の生に役立つ形で意味づけることにあるからだ。人は過去の出来事を語り直しながら、自分が何者であるかという物語を編み続けている。記憶の柔らかさは、その編み直しを可能にする条件でもある。もし一切の編集を許さない記憶であったなら、私たちは過去の一つの解釈に生涯縛りつけられてしまうだろう。過去の意味が変わりうるからこそ、人は挫折の経験を後から糧として語り直し、立ち直ってゆくことができるのである。
ただし、この柔らかさは、正確さが求められる場面では危うさに転じる。だからこそ、正確な保存は記録装置に委ね、人間の記憶には意味づけの働きを担わせるという役割の分担が大切になる。証言や契約をめぐる争いの決着を、人の記憶だけに委ねることの危うさは、記憶のこの性質から来ている。記憶を記録の出来損ないと見なすのではなく、記録とは別の仕事をする働きとして遇すること。それが、この頼りなくも創造的な能力との、賢明な付き合い方である。
本文の内容に合致するものはどれか。
1人間の記憶は録画装置と同じように、経験した出来事を細部まで変わらぬ姿で保存し続けると本文は述べる。
2人間の記憶は過去の忠実な再生ではなく、想起のたびに現在の関心に応じて編集される再構成の働きである。
3再構成される記憶は信頼に値しない欠陥品なのだから、全面的に記録装置へ置き換えるべきだとされている。
4十分な訓練を積み重ねることによって、想起に伴う記憶の編集や変容は完全に防止することができると筆者は述べている。
5記憶の柔らかさは正確さが要る場面でも危うさに転じることはないので、記録装置との分担は不要である。
正解
2.人間の記憶は過去の忠実な再生ではなく、想起のたびに現在の関心に応じて編集される再構成の働きである。
第二段落が想起を再生ではなく再構成と規定しており、正解肢はその中心命題を正確に言い換えているため。
?選択肢ごとの解説
1 ×録画の比喩は実際と食い違うと本文は述べている。
2 ○第二段落が想起を再生ではなく再構成と規定しており、正解肢はその中心命題を正確に言い換えているため。
3 ×本文は欠陥と言い切れないとし役割分担を説く。
4 ×変容を訓練で完全に防げるとは本文は述べない。
5 ×正確さが要る場面では危うさに転じると本文は述べる。
文章理解の他の問題
遊びは長らく、無駄な時間の代名詞であった。勉強や仕事の対極に置かれ、切り詰めるべきもの、成長とともに卒業すべきものとされてき…老いは喪失の物語として語られる。体力が落ち、記憶が薄れ、社会的な役割が剥がれてゆく。獲得の坂を上る前半生に対して、後半生は下…財布の中の紙幣は、なぜ価値を持つのか。紙としての原価は、そこに印刷された金額に遠く及ばない。かつての貨幣が金や銀でできていた…旅の値打ちは、どれだけ遠くへ行ったかで測られがちである。海の向こうの絶景、名高い遺跡、珍しい料理。確かに、遠さと珍しさは旅心…機械があらゆる物を速く安く正確に作る時代に、手仕事はなぜ残っているのか。よくある答えは二つある。一つは、手作りの品は希少で高…会話が途切れて沈黙が下りると、私たちは反射的に気まずさを覚え、何か話題はないかと焦り始める。沈黙は会話の失敗であり、埋められ…美しい風景は、あちらの側に、初めからそのように在る。私たちはそれを見つけ、眺め、写真に収めるだけだ。そう考えるのが自然だろう…本の内容を知りたいだけなら、いまや読書は最も効率の悪い手段かもしれない。要約の記事があり、解説の動画があり、機械に尋ねれば要…
登録は1分・クレジットカード不要。無料のまま練習・暗記カード・模試まで使えます。
作成・校閲:ukamiru編集部 · 行政書士 過去問 · gyosei-kiso8-0012
